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「新しい朝がきた」第118回フリーワンライ お題:「会いたいと夢を見る」

 何年も会ってない、会いたい人がいる。
 その人はいつも前向きで積極的で、よく笑っていたと思う。
 思う、という曖昧な記憶は、笑っていたその顔そのものを思い出せないから。でも毎日がきらきらして楽しそうに笑っていた筈だ。
 会えなくなってどれくらい経っただろうか?
 もう遠い昔のようにも思えるし、昨日のことだったかもしれない。
 耳たぶ辺りで切り揃えられていた私の髪も伸び、随分長くなった。あの頃はカラーリングもしてなかったな。
 会いたい人は今の私を見て、私だって気付いてくれるのかしら。
 コンタクトレンズじゃなくて、あの不格好な黒縁のメガネをかけたら思い出してくれるかしら。

 私の毎日は鈍色の雨のように容赦なく私の肩を濡らしていく。
 それでも私は小さな傘をさして、平気そうな顔をして歩いていけなければならない。
 ただそんな日々の中で、ふっと会いたくなる。
 一瞬でも会えたら、安らぎを得ることができるんじゃないか。そんな希望を持ちながら。
 そんな都合のいい展開はあるわけもなく、体が冷えたまま歩いていく。

 夢に楽土求めたり。
 疲れてしまった私は眠ることにした。
 それこそ限界まで寝たら会いたい人に会えるんじゃないか。
 会いたいと夢に出るって言うじゃない。
 眠れるお薬と温めた牛乳と、少しのお酒。
 少し、だったかしら? 少し曖昧な量。まあいいのよ、これからたっぷり眠るつもりなんだから。
 おやすみなさい。いい夢を。どうかあなたに会えますように。



 牛乳にたらしたブランデーみたいなセピア色の混濁の中で、あの人が泣いていた。
 駆け寄ろうとしても体が重くて動かない。
 手を伸ばした私に気付いたのか、鼻をすすりながらとぼとぼと歩み寄ってきてくれた。
 泣き顔こんなにブスだったかな。
 切り揃えられた黒髪のおかっぱと、重たすぎる黒縁のメガネ。全然似合ってないじゃない。
「泣かないで、笑ってちょうだい」
「無理だよ。どうして私が死にかけてるのに笑えるって言うの」
「前向きで積極的で毎日が楽しかった頃の私に会いたかったのに、どうして笑ってくれないの? これじゃ私が救われないじゃない」
 泣いているブスはずれたメガネをぐいっとあげて、私を憎々しく睨む。
「こんな暗い未来、私は嫌。過去に、夢に、救いを求めるなんて絶対に嫌」
 はっきりと今の私を拒絶されて、望みは叶わなくて、悲しくて仕方ないのに、人目を気にしない醜い泣き顔が何故だかすごく愛おしく思えた。
 そりゃ将来の自分がこんなのだったら嫌だし、笑えないよね、なんて納得もする。
「あの頃みたいに笑えるようになったら、今度は笑ってくれる?」
「……そんなの、笑えるようになってから言って」
「それもそうだね」



 新しい朝がきて、激しい頭痛と酸っぱい悪臭の中、清々しい目覚め。
 どうやら寝ながら嘔吐してたみたいだ。窒息死しなくてよかった。
 掛け布団はセーフ。敷き布団はあとで被害確認。
 もし布団が駄目で捨てるなら、ついでに色々捨ててしまおうか。
 なんだかすっきりしてみたいし。

 例えば、雨の中を歩くには小さすぎる傘とかね。
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「はじかみ」 第104回フリーワンライ お題:「スパイスをきかせた恋はいかが?」

「どうしてこんなこともできないの? いつまでも私が手伝っていられないっていうのに」
「ごめんね涼ちゃん」
「大体要領が悪すぎるのよ」
 出来が良くて面倒見が良くて、ちょっと辛口な幼馴染みの涼ちゃんは、いつもなんだかんだ言いながら私の作業を手伝ってくれる。
「式は明日でしょ。寝不足なんて絶対できないんだからもっと気合い入れて手を動かして」
「うん、ありがとう。頑張るよ」
 包んでも包んでも終わりが見えなかったドラジェは涼ちゃんの介入により漸く希望が見えてきた。
 明日は私の結婚式だ。本当はもっと早く終わってないといけない作業だったのに、私はいつもこうだ。
「……こうしてると夏休み最後の日みたい」
「無駄口叩く余裕はあるのね」
「あ、ごめん」
「いいわよ。超優秀な私が手伝ってるんだもの、必ず目標までに終わらせるんだから気にせず喋って頂戴」
 確かに涼ちゃんの両手は超高速で動き、正確に美しくドラジェが包まれていく。
 本当にあの頃みたい。
 私は昔からとろくて要領も悪くて、毎日夏休みの宿題をやっているはずなのに、夏休み最後の日には宿題が大量に残っていて、七月中に日記以外の宿題を終わらせた涼ちゃんが毎年助けにきてくれていたのだ。
「私も涼ちゃんみたいになりたかったな」
「あなたには無理よ」
「そうだね」
 生まれながらの出来が違うとしみじみ思う。だけど嫉妬はしない。だってこんなに駄目な私に今も付き合ってくれるなんて超良い子だもん。
「大体今日これを手伝うべきは新郎じゃないの? どこ行ってるの?」
「独身最後の夜だから友達と飲みに行くんだって。結婚したら今までみたいで自由じゃなくなるからって」
「良いご身分だこと」
 涼ちゃんは賢いから、私の考えの及ばないところで私の結婚相手を良く思ってないらしい。
 付き合うのも結婚も相手に言われるままで私がなにも決めてないんじゃないか、って。
 私としてはなんでも向こうが決めてくれるのは優柔不断な私に合ってるんじゃないかしらと思うのだけど。
「あ、すごい。あんなにあったのに、もう終わっちゃった」
「私が手伝ったんだから当然でしょ」
「本当にありがとう。そうだお礼に夕飯食べてってよ。お母さんに言ってくるから」
「花嫁修業の成果は見せてくれないの?」
「それはねーまだ頑張ってる最中かも。また今度ね」
「その今度って何年後かしら」
 涼ちゃんは料理も上手いから、どんなに修行しても自信を持って料理を出せない気がする。
 しかもおしゃれなんだよね。私のは本当に家庭料理って感じだし。
 小さな食卓を涼ちゃんと囲む。これも夏休み最後の日の風物詩。
 今日のメニューは本当に簡素なものだ。結婚式の前日でお母さんもばたばたしていたから、昼の煮物の残りとご飯、お味噌汁。それから佃煮と漬け物。
「はじかみがかぶってる」
 そんな食卓を見て涼ちゃんが一言そう言った。
「え、はじかみは一つだけだよ」
「料理のはじかみはこの漬け物よね。でも実山椒の佃煮もあるでしょ。山椒のこともはじかみって呼ぶのよ」
「そうなの?」
「日本古来の口に入れて辛いものの総称なのよ。生姜も山葵も辛子も全部」
 涼ちゃんは物知りだな。
「端っこだけ噛むからはじかみなのかと思ってた」
「小学生みたいなことを言うのね」
「じゃあ涼ちゃんもはじかみなの?」
 じろり、と睨まれる。涼ちゃんの辛口をはじかみに例えるのは駄目だったみたい。
「美味しいし、爽やかだし、私ははじかみ好きだけど」
「……私もよ」
「涼ちゃんのことも大好きだよ」
「そこは同意しないわ」
 やっぱり辛口。
 びっくりするくらい普段通りの夜で、思い出話とかもっとしんみりするものだと思ってたけど、こういうのも悪くない。
「もし結婚が嫌になったら連絡しなさい。嘲笑いに行ってあげるから」
「うん」
「そのときは今日以上に食卓をはじかみだらけにしてあげるわ。あなた辛口が好きみたいだし」
「うん」
「私だって暇じゃないんだから早めにしてよ」
「わかった」
「あなたのわかったって信用ならないのよねえ」
 普段通りの幸せな夜だ。独身最後の夜にはちょうど良い。
 そんなことを考えてにこにこしていたらはじかみを口に突っ込まれた。
 今夜もぴりっと辛いのね。

「素敵な縁結び」 第102回フリーワンライ お題:「太陽に憧れる星」

 人間程良いのが一番いいのだと思う。
 程良く美人で程良く善人で程良く賢い。
 程良い人間の周りには人が良く集まってくる。
 周囲を程良い陽気で暖かくする、彼女は太陽のような人だ。

 程良くない人間は、遠巻きにされる。
 劣っていても秀でていても人は寄ってこない。
 夜空に輝く白い小さな星は、太陽よりも大きくて太陽よりも熱い。
 生き物に恵みなんて与えない独りぼっちの星だ。

 友達になれたらいいな、と思う。
 あの太陽みたいな子なら受け入れてくれるんじゃないだろうか。
 だけど私の白い熱はあの子を燃やしてしまうだろう。近付かないのが賢明だ。
 今日も遠巻きにあの子を見ているの。


 休日は通帳と睨めっこ。
 働けばお金は貯まるけれど、使い道はない。
 まだ未成年で家族と同居しているし、服もお母さんが買ってくるのを着てるくらいでこだわりはない。
 友達でもいれば遊びに使えるのだろうか。
 そういうときにあの子の顔が浮かぶのだ。話したこともないのに。
 どんなファッションが好きなのかな?
 お気に入りのカフェはどこ?
 休日を費やしてしまうような趣味はなに?
 恋みたいだね。片思いだけど。

 少し考えて文房具を買うことにした。
 大人になっても使えるような、ちょっといいやつを買おう。
 銀座のお店に行けば色々ありそう。色がきれいで重心が低い筆記具が欲しいかもしれない。


 月曜日、何故だかクラスでひそひそされている気がする。
 昨日買った新しいペンが不格好に見えて笑われているのかもしれない。
 寸胴で重心低くて、ちょっと高いけど保証付きのいいペンなんだけどな。首から提げることもできるし。

 火曜日、何故かぼっちの私に少し人が寄ってきた。
 どうやら誰かがペンの値段を調べたらしい。試し書きさせてほしいと言われた。
 なんだか嫌な感じだったので断った。

 水曜日、あの子まで寄ってきた。
 他の人と同じように試し書きさせて欲しいと。この子以外なら迷わず断るのに。
 迷いながら曖昧に言葉を濁す。

 木曜日、またあの子がやってきた。
 どうしても使ってみたいのだと言う。
 私は、あの子の笑顔を私に向けて欲しかったの。

 金曜日、体育から戻るとペンが消えていた。
 不用心だったと言われればその通り。高額で無くしたら困るものを持ってきていた私が悪い。
 あの子は私のところへ来なかった。
 ペンを無くした私に用は無いのだろう。



 土曜日、街外れのカフェで書き物をするあの子を見かけた。
 不用心にもほどがある。あのペンはこの街では売っていないのに。
 夢中になってスマホのシャッター音にも気付かない。

 月曜になったら、あの子の友達になってと言いにいこう。
 そして私は太陽に寄り添う星になる。
 きっと骨も残らないくらい、傍にいてくれるよね?

「土に溶ける素材」 第98回フリーワンライ お題:「クローン」

 ある日クローンが合法になった。
 自分自身のクローンは自分が責任を持って養育すること、というルールの上で。
 まず喜んだのは大学教授と科学者だった。例え自分が死んでも同じ頭脳がいつまでも自分の研究を引き継いでくれる。
 次に喜んだのは跡継ぎに恵まれない一次産業に従事するもの。都会へ出て行ってしまった子供の代わりに自分が跡を継げばいい。
 それなりに高額であったにも関わらず、一度目の募集はすぐに予約でいっぱいになった。

 それから二十余年、今度はクローンが自らのクローンを作ろうと動き出した。
 オリジナルが持っていた知識や経験を若い脳で吸収したクローンたちはみな優秀で、次世代のクローンを作ろうと考えることは自然な流れであった。

 ところがクローンがクローンを作ることに反対するものたちが出てきた。
 それはオリジナルが残した実の子供や孫たち。
 いつまでもオリジナルが生きているようで気持ち悪いと言い出したのだ。
 勿論クローンたちはオリジナルではない。外見や適性は引き継いでいても、全く別の人格であり、自分たちのオリジナルを敬愛し、クローンであることを誇りに思っていた。
 だからこそ問題はいつまでも解決しなかった。
 遺伝子上は骨肉相食み、他人以下の感情で争い、双方矛を収めることはなく、やがてクローンたちは勝手に自らを複製し、子孫たちはクローンが生まれる前に施設を破壊した。

 オリジナルが残したかった知識も経験も捨て、クローンは争いの知恵をねじ込んだ。
 子供が死に孫の孫の代になっても理由を失ったまま、クローンを排除し続けた。

 やがて知識と経験と最初からクローンを必要としなかった人類が息絶え、文明を維持する技術が失われても、彼らは争いながら最期まで和解することなくやがて滅びた。



 破壊を尽くした末の破滅は記録すら失われてしまう。
 新しい文明が生まれるころ、僕はもう跡形もなく消えてしまっているだろう。
 もう思い出せない。僕はクローンだったのか子孫だったのか。クローンの子孫だったかもしれない。クローン施設の機械だったかもしれない。

 栄華を極めて雑に滅びた文明は優れたリサイクル社会だったので滅びても自然に優しい。
 教訓も過ちも何一つ大地に残さない。

 願わくば次の文明はもっと愚鈍でありますように。

「悪の組織わたわた」 第86回フリーワンライ お題:「彼の枕」

「腕枕ってあるじゃない。あれってやりたがる人多いけれど寝にくいよね」
 へーそうなんだーと聞き流す。
 生憎そういった経験は無い。腕枕なんて現実にあるんだね。
「わかる。高さが合わなかったり」
「枕専門店で高さと柔らかさのカスタマイズできたらいいのに」
 きゃっきゃと盛り上がる友達を尻目に、枕専門店に男性が入店し、改造されて出てくるところを想像する。
 わお、とっても悪の組織っぽい。
 きっと腕以外にも彼女向けにカスタマイズされてしまうに違いない。
 ということは彼女が悪の組織の総統になるのか。
「彼の脚で膝枕もしたりするの?」
 ふと気になって聞いてみる。
「ああ、あれも人によってはいまいちだよね。ちょっとお肉あるといいんだけど細い男の人だと硬くって」
「枕にするならお肉あったほうがいいよね」
 つまり悪の組織では太腿も改造されるようだ。
「他の場所は?」
「えーお尻とかお腹とか、胸板とか……ってなに言わせるのよ。興味なさげな振りして非道い」
「気になっただけだし」
 お腹もお尻も胸板も綿を入れられてどんどん想像の彼氏がぬいぐるみと化していく。いや、ぬいぐるみは枕にはしないか。
 しかし男性を改造して綿だらけにするって、弱そうな悪の組織だ。攻撃力殆ど無いじゃん。
 でも真綿で首を絞めるって言葉があるし、精神攻撃に秀でているのかも。
 ふかふかの体で抱きしめて、正義の味方を眠らせて、やる気を奪っていくと考えたら強いような気もする。
 実際この時期の綿のものはとても心地良い。
 半纏も、こたつも、布団も。
「……布団は対人類最終兵器だった?」
「え?」
「いやなんでもない。寝心地求めるなら布団と付き合えたら最高なんだな、と思っただけ」
「あーそうねえ、布団と結婚できたらいいわー」
 この世界のどこかには彼氏たちを枕や布団に改造し世界征服を企む彼女たちがいるのかもしれない。
 そして気が付けば日常が布団と枕による心地良い眠りに冒されているんだ。
 征服の目的が思い浮かばないけど。
 なんて、莫迦なことを考えてランチタイムを終える。
 リア充な友達たちはまだ彼氏の話で盛り上がっている。

 いつか私にも彼氏ができたら本当に綿を詰めて改造してみちゃおうかな。これで私も悪の総統の仲間入りだ。
 ……それより枕を彼氏にするほうが手っ取り早そうだけど。

「住む世界が違いました」 第78回フリーワンライ お題:「君の隣で窒息死」

 知らなかったの。
 恋がこんなにも苦しいなんて。

 重たい。体も頭も心も。
 私の血液に酸素が回らなくなってどれくらい経ったかしら?
 辛うじてまだ止まっていない心臓は、君への想いだけを体中に送り出す。

「そんなに口をぱくぱくさせてなにが欲しいの?」
 君よ。
「そんなに丸い目でなにを見てるの?」
 君よ。
「ばたばたと、どうしてもがくの?」
 君が欲しいの。
 いま私は焦がれた君の隣にいる。
 どんなに苦しくても離れたりしないわ。

 一目で恋に落ちた私を君はどう思っているのかしら。
 ただの愚かな獲物だと笑うのだろうか。
 私と君は住む世界が違う。それでも出会ってしまった。それは奇跡みたいな確率だ。
 元居た世界がきらきらと光って、戻っておいでと囁くけれど、私はこの新しい苦しい世界から出て行ったりしない。
 君が居るから。
 きっと最期まで君が隣に居るから。





 庭の池の小魚を掬って遊んでいたらママに見付かってしまった。
 ママの声で慌てて池に戻そうとしたのに、小さくて赤いやつが一匹、死んでしまっていて水面に浮かんできてバレた。
 叱られて嫌な気分だ。あの赤いやつのせいでひどい目に遭った。
 あーあ……今度は見付からないようにしようっと。

「白蛇は神の遣い」 第68回フリーワンライ お題:「白〇〇(動物の名前、例:白兎)」

 物心つく前から、私の体は蛇の住処だ。
 首に巻き付き、背中を這い、一匹の白蛇が自由気ままに暮らしている。
 信心深いお年寄りは白蛇は神の遣いだからと殺そうとしなかったし、せめて体からはがそうと大人たちが手を伸ばすと牙をむき威嚇する。
 いつしか、大人になったら白蛇の嫁になるのだと言われるようになった。

 蛇は可愛い。つぶらな目をしていて、とても大人しい。
 そこまで大きくもないし、怖いと思ったことはない。
 でも私は恋をするなら人間がいいな。
 大体神の遣いだなんて言うけれど、この白蛇は私の体から離れないのだから、遣いの仕事なんてさぼりまくってとっくに解雇されてるに違いないわ。
 無職と結婚なんて厳しいよね。

 私と結婚したかったら働きなさいと白蛇に言い続けてたら、私の十八歳の誕生日に蛇は死んでしまった。
 死んでも働きたくなかったのか。
 真っ青な顔をして大人たちが口々に蛇が死んだのは私のせいだ、災いが起きたらどうするのかと言うので、なんて勝手なことを言うんだろうと腹が立って、私は言った。

「そのくらいで災いが起きて困るというなら、こんな町滅びてしまえばいいのよ」

 そうしたら、誰も居なくなってしまった。
 目の前でさらさらと人も町も土に還って、残ったのは荒涼とした土地だけ。
 なるほど、あの白蛇は私の遣いだったんだね。
 毎日働いていたのに働けなどと悪いことを言ってしまった。
 死んでしまった白蛇に心の中で謝っておく。

 今度はもっと寿命の長い蛇にしよう。

第54回フリーワンライ お題:「時間切れ」

 一体いつまで待てばいいのだろう。
 ガラにもなくイライラしているが、横にいる二人の鬼も申し訳なさと苛立ちを混ぜ合わせたような表情をしているので八つ当たりすることもできない。
 実際彼らは全く悪くないのだ。
 コンビネーションを要求される仕事だから連帯責任というものはあるのだろうが。
 わざとらしくため息を吐くたびにびくっと跳ね上がるのを見るのも気の毒だ。鬼なのだからもっと偉そうにしていてもいいのに。
「三人目がこのまま来なかったら、俺ってどうなるの?」
「来ます。大丈夫です」
 回答にはなってない。
「ケータイとかそういう通信手段はないの?」
「あるんですけど呼び出し中のまま繋がらなくて」
 あるのかケータイ。意外とハイテクだな鬼。

 俺が山登り中に滑落して死んで、今日で三日になる。
 三日前死後すぐにやってきた二人の鬼はあの世からやってきて死んだ肉体から精気を吸出し、肉体を腐らせるという仕事をしているらしい。
 ところが肉体から魂を抜いてあの世へ連れて行く役割をもった鬼が死後三日経ってもやってこない。
 三人組の仕事は魂を抜いてから精気を抜き体を腐らせるということで、二人の鬼も全く仕事ができない状況で一緒に待ちぼうけている。
 おかげで夏だというのに腐ることもなく、怪我をしている以外は眠っているようなつやつやの俺の死体が誕生してしまった。
 これが山じゃなくて街中だったらちょっとした騒ぎになるね。腐らない死体として研究機関に引き取られてしまうよ。
 せめて死蝋みたいになってくれれば死体として認識してもらえるんだろうか。
 今のところ誰にも発見されていないが、いつかは見つかってしまうだろう。それまでにきちんと死ねるのか不安になってきた。

 ところで俺に対して捜索願などは出されているのだろうか?
 一人暮らしだし、夏休みを利用して山に来ていたのだから、恐らく知り合いはまだ誰も俺の失踪に気付いてない。
 来週になれば出社しないことで上司から捜索願が出されるかもしれない。
「鬼って時間の感覚は人間と一緒なの?」
「かなり違うと思います。人間の一日の感覚がわかる時計を支給されてますけど、かなり短く感じますし」
「じゃあ三人目の遅刻もそんなに大した時間じゃないのか」
「遅刻厳禁なので時間の問題ではないですけどね」
「それなら遅刻するのは珍しいことなんだな」
 尚更彼らが気の毒だ。
 とはいえもう退屈がピークに達している。
 昨日は鬼たちに頼んで自分の死体を観察してみた。つむじとか背中とか生きてるうちには絶対見ることができないから記念に見ておこうかと。
 心臓はちゃんと止まっていたし、体温は分からなかったが鬼たちによると気温と同じくらいと言うからどんなに寝ているように見えても完璧に死んでいた。
 今日はもうそんな死体遊びにも飽きてだらだらと思い付くまま鬼たちに話しかけるだけだ。
 明日になったらいよいよ話すこともなくなるかもしれない。

 ときどきなにかこっそりやってるなあと思ってたけど、退屈しのぎによく見たら鬼が持ってるのはケータイじゃない。実物見たことないから知らないけどあれは多分ポケベルだろう。
「あっ」
 突然画面を見ていた鬼が小さな声で驚いたような声を出した。
「どうした奪精鬼」
「ここに来るはずだった新人の奪魂鬼が逃げたみたいです」
「代わりは?」
「奪魂鬼は全員シフトが埋まってて、初七日中に空きがないそうです」
「それはもう、時間切れ、ということになるな」
「そうなりますね」
 なにやら小声で相談しているが丸聞こえだ。
 来るはずだった新人が逃げて代わりの確保ができなくて顔面蒼白になっている。
「すみません、こちらの都合なんですけど、期間内にちゃんと死んでもらわないと大変なことになるんですが、それを達成するのが非常に厳しくなりました。大変お待たせして申し訳ないのですが怪我の治療とかサービスしますんで生き返ってもらいますね」
「へ?」
 なにもなく突然そんなことを言われ戸惑うが、俺の死体の傷がみるみる治っていく。
「生き地獄に戻すのは申し訳ないですがまた迎えに来ますのでそのときは必ず!」
 なにも言えないまま、そこで意識が途切れた。



 体の痛みで目が覚めた。
「いてえ」
 ああそうだ俺は山道で足を滑らせて滑落し、運よく低木の上に落ちたらしい。
 衝撃でしばらく気を失っていたようだが、切り傷だけで骨は折れてなさそうだ。
 なにか夢を見ていたような気がするが、まあいい。とりあえず下山しよう。
 夏休みなのに行楽中に落ちて気絶するなんてツイてないね全く。

「弟は一生姉に逆らえないのかもしれない」ぱるメロ!フラットとルリカ #音ゲー深夜の小説一時間勝負

 その日、見るからにどんよりとした空気をまとわせて、フラットがため息をついていた。
「どうしたの、そんな顔して」
「昨日友達から借りたマンガに横暴な姉と姉に一生逆らえない弟が出てきて、大人になってもこうなのかと思ったら色々やんなってさ」
「あー」
 フラットにはお姉さんがいて、仲は全く良くないらしい。
 聞いただけの話だけど、傍若無人で短気ですぐ弟を殴り、家事能力が壊滅的で特に料理では何度も生死の境を彷徨う羽目になったとか、ある意味実在を疑うマンガのような人物なんだけど、マンガひとつでこんなにテンション下がるってことは実在するんだろうなあ。
「オレ、一生ねーちゃんにパシリにされたり、好きな女の子をダシに無理難題ふっかけられる気がしてきた」
「いやでもお姉さんだってそのうち結婚して弟離れするんじゃないかにゃあ」
「見てくれは兎も角あの性格と家事能力で結婚できるわけがない」
 男子中学生にそんなこと言い切られてしまう姉ってどうなんだろ。
「まだ好きな女の子とかいないんだし、奇跡を待って希望を持って生きるしかないね」
 フラットとは同じ歳なので色々雑談はするけど、恋愛に関する話は全く話したことがない。
 コイバナなんて女友達とするものであってわざわざ男子としないし。
「いや一応、好きな人はいるけど」
 だからフラットがそういうことを言うとは思ってもみなかった。
「うっそ、彼女いるの? 片思い? ルリカの知ってる人?」
 思わず食い気味に質問してしまう。
「女ってこういう話好きだよなー」
「にゃはは、いいから早く教えてよ」
 フラットはしばらくもごもご口が滑っただのなんだと言って、それから意を決したように顔を上げた瞬間視線がぶつかった。
 もしかして相手はルリカなの?……なんて思う間もなくそのまま視線は移動して背後へ。
 視線を追いかけて振り向くとアンバーとカシアラさんが楽譜片手に音を合わせて睦まじく遊んでいた。
「ちょっと、フラットってそっちの趣味だったの? アンバーってまだ七歳だよ」
「バカ、そんなわけないだろ」
「だってそこにはアンバーとカシアラさんしか……カシアラさんなの? なんで? 年上でしょ?」
 思い込みかもしれないけれど姉を苦手と豪語するフラットがかなり年上のカシアラさんを意識してるなんて信じられない。年上の女性はみんな苦手なんだろうと漠然と思っていたから。
「だって美人で優しくて、自分のことを全然話さないミステリアスなところもいいっていうか」
「意外過ぎたにゃあ」
 そして絶対にフラットの片思いで終わるだろうなあ。カシアラさんが優しいのは誰にでもだし、いつもべったり貼り付いてるアンバーがカシアラさんに接近する男を許さない気がする。
「あとねーちゃんに負けなさそうなところ」
「つまりお姉さんと正反対の性格で、お姉さんに負けない人がいいってこと?」
「オレじゃねーちゃんに勝てないからな」
 姉を基準に人を好きになるのもある意味シスコンじゃないかなあと思ったけど言わないでおく。
「フラットのコイバナなんて期待して損したにゃ。まだまだお子様ねー」
「なにがだよ、わけわかんねえな女って」
 弟は一生姉に逆らえないのかもしれない。フラットを見てるとそんなことを思う。
「いいのよ気にしないで。ほらカシアラさんにアタックするならまずはアンバーに気に入られないと。人を射んとせば先ず馬を射よ、って言うでしょ」
「お、おう」
「好きになった理由は兎も角、ルリカはフラットを応援するからね!」
 背中を押して見送って、きっと成就しないフラットの憧れを見守りながら密かに作戦をたてることにした。

 まずは強烈なお姉さんに勝てるくらい、ルリカも強い女の子にならないとね。

「オランジュショコラ」IIDXタルト&タフィ #音ゲー深夜の小説一時間勝負

 やっとあなたを嫌いになれたの。


 メニルモンタンの街角で私の服を着て私の彼と仲睦まじく歩くタフィに出会ったの。
 そのとき私はタフィの服を着てタフィの彼と腕を組んでいたわけだけど。
 男たちは顔を青くして組んでいた腕を振り払ったり、距離を空けたりしたけれどそれはもう手遅れね。
 こんな倒錯的なデートを受け入れた時点でお互い様なのだから。
 提案したのは私だけど別にタフィの彼に興味があったわけじゃないわ。これはただのひまつぶし。
 きっとタフィもそうなのだろう。私たちは二人でワンセットなのだから。
「男の趣味の悪さもそっくりね」
 軽く自虐するように声をかけてあげる。
 それなのにタフィから返ってきたのは予想とは全く違う言葉だった。
「どうして?」
 心配になるくらい真っ白な顔で、拳を握り締め、タフィが私を睨みつけた。
 睨みつけた?
 タフィが私を?
「どうしてってタフィあなた変よ」
「変なのはタルトでしょ」
 タフィがなにを言っているのか全くわからない。
 私たちは同じことをして、ただ偶然街角で出会った。それだけのことでしょう?

 服の貸し借りはいつものことだから特に気にせずタルトの服を着て私は外に出た。
 こないだタルトが学校でプティフールを褒められたととても嬉しそうだったから、ちょっとしたお祝いのプレゼントをしたかったのだ。
 キッチン雑貨のお店で偶然タルトの彼に会ったから、タルトが喜びそうな雑貨を二人で探したんだけどその店はイマイチで。坂の上にもっとセンスがいいお店があるよ、とタルトの彼が言うから案内してもらうことにしたわ。
 街の名前がそのまま空に移ったみたいに、外はどんよりして今にも雨が降り出しそう。
 そんなときよ、タルトが私の彼と腕を組んで歩いてきたのは。
 私とタルトはそっくりだけど、瓜二つじゃない。
 ただそっくりなだけの二卵性双生児よ。だから髪の色も好きなものも違うの。いくら私の服を着ていたって私の彼と腕を組んでいたって、タルトは私じゃない。
「そこは私の場所だったのに」
 もうあれは私の彼だった人だから、二度と納まらない場所だけど。
「タフィがなにを怒ってるかわからないわ。教えてくれない?」
 タルトは私の個の人格を見てくれない。ずっとそうだった。タルトにとっては私もタルトなんだわ。
 幼いころはそれでも良かったけれど、私はもう違う人格なの。
「私は、タルトがその人と腕を組んでいたことにも怒っているけど、私をタフィという一人の人間として見てくれないことに今絶望しているの。私はタルトじゃない。あなたとは別の人間なのよ?」

 気が付くと雨が降り出していた。
 タフィは雨に濡れながら私を一瞥もせずに坂を下っていった。
 残ったのは私と二人の男たち。
 タフィの彼じゃなくなった人のことは放っておいて、私の彼に詰め寄ると、どうやらタフィと彼は偶然店で会っただけらしい。
 私へのプレゼントを探してたんですって。
 それから彼も私の彼ではなくなるみたい。それはまあ仕方ないことね。
 私も雨に濡れてしまったことだし家に帰ることにしたわ。帰り道でオランジュショコラを買わないと。帰ったらきっと二人とも無言でコーヒーを飲むから甘くて少し苦いものが必要なの。
 きっと私には今のタフィの気持ちがわからないから謝ったりはできないけど、それでもタフィを大切に想っているって伝えなきゃ。


 やっとあなたを嫌いになれたの。どうせ許してしまうと思うけど。
 嫌いになれたのは、私もあなたを別の人間だとはっきり認識できたからなの。
 タルトもそろそろ帰ってくるだろう。きっと甘いお菓子をお土産にして。
 だから乾いたタオルを用意して、コーヒーを淹れるお湯を沸かして待っていよう。
 嫌いでも大切な家族であることには変わらないのだから。
プロフィール

イマイマイ

Author:イマイマイ
へたれゲーマー。最近はもっぱら家庭用。
本命はテクニクビート。愛してます。

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